【海外の動き】中国「全国統一炭素排出権取引市場」取引開始

事務局より海外の脱炭素・環境に関する動向をお届けします。

●中国「全国統一炭素排出権取引市場」取引開始

2021 年 7 月 16 日、中国の全国統一炭素排出権取引市場が正式に取引を開始した。同日、
全国統一炭素排出権取引市場で取引された炭素排出権(CEA)の総量は約 410 万トン、取引
高は 2 億 1000 万人民元(約 35 億円)に達した。1 日を通して取引された平均価格は 1 トン
あたり 51.23 人民元(約 856 円)であった。

1ヵ月後の 8 月 17 日現在、全国統一炭素排出権取引市場で取引されている炭素排出権
(CEA)の累積量は 702.5 万トン、累積取引金額は 3 億 5500 万人民元(約 56.5 億円)とな
っている。

中国の炭素排出権取引市場の構築は、地方のパイロットプロジェクトから始まり、2011 年
10 月以降、北京、天津、上海、重慶、湖北、広東、深圳で炭素排出権取引のパイロットプロ
ジェクトが実施されていた。 2021 年 6 月時点で、上記省・市の炭素排出権パイロット取引
所では、累計で 4 億 8000 万トンの炭素排出権が取引され、売上高は約 114 億人民元(約
1900 億円)に達した。 主要な排出事業者の契約履行遵守率が高水準を維持しており、取引
市場の対象範囲内の炭素排出権の総量と強度が二重に低く抑えられる効果が得られた。

上記の地方パイロット事業で得られたシステムの構築や人材育成などの経験を最大限に
活用するため、全国統一炭素排出権取引市場の炭素登録システムは湖北省炭素排出権取引
所が構築・運営するとともに、取引システムは上海市炭素排出権取引所が構築・運営するこ
とになった。またデータ報告システムは国家排出許可管理情報プラットフォームが構築し
た。

全国統一炭素排出権取引市場の 1 年目では、年間約 45 億トンの CO2 排出量をカバーする
発電部門の主要発電所 2162 ヵ所が対象であった。 すなわち、中国の全国統一炭素排出権取
引市場は稼働開始の瞬間に、温室効果ガスの排出権を対象とした世界最大の炭素市場とな
ったことを意味する。
ちなみに、全国統一炭素排出権取引は、各事業者の排出量の上限となる排出枠(キャップ)
を設定し、キャップを無料で割り当てられた事業者間で余剰排出量や不足排出量を売買す
ることができる「キャップ&トレード」という方式を採用している。

中国生態環境部の劉有斌報道官は、「発電産業は率先して水を試したが、将来的には発電
産業は決して『一芸に秀でた存在』にはならないだろう」と述べている。今まで、生態環境
部は、国家温室効果ガスの排出量リストの編成作業と合わせて、鉄鋼、セメント、建材、航
空、石油化学、化学、製紙などの高排出量産業のデータ集計、報告、検証作業を長年にわた
って展開しており、これらの産業でもデータベースの構築はほぼ完成した。

生態環境部の黄潤秋部長は、従来の行政手段と比較して、炭素市場は温室効果ガス排出抑
制の責任を企業にコンパクトにまとめるだけでなく、炭素削減のための経済的なインセン
ティブを提供し、社会全体の排出削減コストを削減し、グリーン技術の革新と産業投資を促
進し、経済発展と炭素排出削減の関係を処理するための効果的な政策手段を提供すること
が、国内外の実践から明らかになったと述べた。

生態環境部は、次のステップとして、取引対象産業を着実に拡大していくとしている。関
連業界団体には、統一炭素排出権取引市場の要件を満たす業界標準や技術仕様の調査・提案
を依頼しており、「熟したものを承認・公開する」という原則に基づき、排出権取引市場の
対象となる産業の範囲をさらに拡大し、温室効果ガス排出量の抑制、グリーン・低炭素技術
革新の促進、気候変動対策のための投資・融資の誘導など、市場メカニズムの重要な役割を
十分に発揮していく予定。 これにより、炭素排出権取引市場の範囲がさらに拡大し、温室
効果ガスの排出量をコントロールし、グリーン・低炭素技術革新を促進し、気候変動対策の
ための投資や融資を誘導する上で、市場メカニズムの重要な役割が十分に発揮されること
になる。

余談となるが、十数年前から、環境省をはじめとする関連省庁は日本国内の統一炭素排出
権取引市場の構築を検討してきた。当時、日中韓各国はほぼ同じスタートラインに立ってい
た。十数年後の今、韓国、中国の全国統一炭素排出権取引市場は前後してすでに本格稼働し、
巨大な市場を形成して温室効果ガスの排出量をコントロールする市場メカニズムにおいて
重要な役割を果たしつつある。一方、日本の場合、より慎重に検討している状態である。
なお、昨年度から日本国内のカーボンニュートラルに関する議論は急速に加速化し、炭素
排出権取引に関連する J-クレジットの国内統一取引市場の検討も加速化し、2026 年からブ
ロックチェーン技術を活用した J-クレジット取引市場の運用開始、最速では 2022 年度から
の運用開始を目指している模様。

いずれにせよ、日本国内の統一炭素排出権取引市場をできる限り早く構築、稼働し、国が
宣言したカーボンニュートラルの目標達成に一助することを期待する。

(日本テピア株式会社)